慣性という言葉はおそらく聞いたことがあるでしょう。
・電車が急ブレーキをかけた時に前にツンのめる
・エレベーターが上昇する時いつも以上に重力を感じる
などなど実感しやすいものだと思います。
今回扱うのは「慣性力」です。
なんとなく慣性という言葉を使いますが、実際どういう意味なのか説明できますか?
「慣性」と「観察者」
慣性とは
「物体がそのままの状態を続けようとする」性質のことです。
力が働いていない物体が等速直線運動するのはこの“慣性”によるものですね。
言葉で理解したくない人は\(F=ma\)が成立する性質だと思ってください。
唐突で申し訳ないのですが、観測者についても説明させてください。
観測者とは名前の如く、物体の運動を観察する人です。
昇りエスカレータを逆走する人を想像してみてください。
もちろん迷惑行為なのですがそれは置いといて、
あなたが同じエスカレータに乗っているのだとしたらその人はくだっているように見えますよね。
一方、もしあなたが「やべー奴がいるな」と思ってエスカレータに乗らずその人を眺めていたら?
エスカレータが昇る速度と逆走のくだる速度が相殺してその場に居続けるように見えます。
つまり、運動とは何と一緒になって観測するかで違った振る舞いをするわけです。
このあとの説明で観測者という言葉が出てきた時はこのエスカレータの例を思い出してくださいね。
慣性には条件がある
だいぶ前置きが長くなりました。
本題の慣性力に入りましょう。
まず、慣性は観測者の環境次第で成立したりしなかったりします。
急ブレーキをかける電車の中で前につんのめる人を想像してください。
あなたが電車の席で座ってそれを見ていたとしましょう。
「あれ?慣性が成り立つなら棒立ちのはず。
なぜこの人は誰からも力を受けていないのに前につんのめっているんだ?」
いえ、あなたは多分こうは思わないでしょう。
経験則でつんのめること自体は頭に入っているからです。
しかし、慣性という法則を知りながら慣性の条件を知らないならばこう思っても不思議ではありません。
実は、慣性は「加速度運動している観測者」からみると成立しません。
電車で座っていたあなたは「電車と一緒になって急ブレーキ(これが加速度運動)した観測者」だったので、慣性が成立しないように見えたのです。
慣性力の出番
え?
「慣性という身に染みた自然法則が成り立たないのはなんともむずむずするなあ」ですって?
そんなお困りのあなたに「慣性力」です。
慣性力とは「観測者の加速度と逆向きの力が働いているということにしちゃえば慣性が成り立つじゃん」という力です。
赤線を引いていることからもわかると思いますが「ということにしちゃう」ってのがポイント。
実際に働いている力ではない。
先ほどの例でいえば急ブレーキは後ろ向きの加速度なので、それと逆向き=前に力が働いているということにするわけです。
急に前向きの力を受けたら前につんのめるのは当然ですよね?
慣性力とはつまり
「加速度運動する観測者にとって慣性が成立するために用意された力」となります。
ふう、この1行で終わる説明のためによくここまで読んでくれました。
私もあなたも疲れたと思うので今日はここまでにしておきましょう。
最後に
駅のホームで眺めている人からみると慣性は成立するので、力の矢印をしっかりかけば前につんのめる理由は説明できます。
今回の話の本筋ではないのと、自分で考えてみてほしいことからあえて解説しません。
余裕のある人はぜひトライしてみてください。
最後になりますが、
慣性力は「見かけの力」なんて説明を学校でされているでしょうから舐めたくなる気持ちもわかります。
でも、大事です。
解析力学でのダランベールの原理なんかと繋がっていきます。
(微分方程式までわかっている人は調べてみるといいかも。)
電車に乗っている人、駅のホームで眺めている人。
どちらの立場からでも運動を説明できるようになったならば、あなたに敵はもういないことでしょう。