藤山障害走
幹部候補生学校には藤山障害走なる行事があります。
高良山登山走に並ぶ2大イベントのうちの一つです。
アップダウンの激しい山道を走りながら道中いくつもある障害をクリアしていきます。
簡単な障害は花を穿りながらクリアできますが、綱渡りなど神経を使う障害もあります。
なんと実弾を使った射撃も障害に含まれています。
ハタから聞く分にはとても面白そうですが、今日の話はこれについでではないので省略します。
訓練でクラスの雰囲気が
幹部候補生学校において行事は基本、区隊(学校でいうクラス)対抗です。
本番に向けて各区隊が日々自主的な訓練に励みます。
私の区隊は体育会系も体育会系な同期(防大出身)、K君が訓練担当でした。
その生徒は区隊を勝利に導くため、区隊に対し厳しい訓練を課します。
根を上げる同期にはハッパをかけ、成績が悪い同期にはちょっと酷いことも言っていました。
普段いいやつではあるのですがちょっと浮いた存在になってしまい、藤山障害走で勝つ意欲がなくなる同期もちらほら。
区隊は一致団結とはとてもいえない状況になってしまいます。
U君のあたたかい言葉
藤山障害走の訓練期間も終盤に差し掛かった頃です。
ある日の終礼時、U君はいきなりみんなの前にきてこう言いました。
「長い長い道のりを歩き切るってとても大変だよね。
先が見えないくらい遠いゴールに挫折したくなるのは当然だ。
じゃあどうやって乗り越えるのか。
それは一歩一歩前進したことをみんなで確かめていくしかないんだよ。
今までの辛さを吐き出してもいい。
大変ながらもここまでやり遂げたんだということをみんなで共有することで、歯をくいしばってさらに前に進めるんだ。
もし自分が辛いことや疲弊している事実を無視したり誤魔化していると、きっとどこかでポッキリ心が折れてしまう。
今日は確かに辛かったけど、みんな一歩進んだ。
明日も前進しよう」
同級生からそんな言葉が出てくるのか?
とてもではありませんが私には自分と同じ年の言葉には思えませんでした。
ましてや普段ミニ4駆とゲームの話しかしないU君の口からです。
ほとんどの同期は真面目にU君の話を聞いています。
いいことを言っているのは間違いないのですが私は「どうしたU君」と驚きの方が勝ってしまいました。
すると隣に一人笑いを堪えている同期が。
後でそいつに話を聞くと、区隊の様子を見かねた教官(レンジャー)がU君に代理スピーチさせたようです。
「Uがあんなこと自分で言うわけないだろ」と呆れられ、すべて合点がいきました。
U君自身も「傀儡や傀儡! 俺があんなことやるわけないやん!」と笑っていました。
私はいつも通りのU君にホッとしつつも教官からのありがたい言葉ということでしっかりと胸に刻んだのでした。